2018年ロシアW杯 日本代表卒業旅行
このままでは壊れたレコードのようにTwitterで延々と同じ愚痴を繰り返しかねないので以下に記す。
2018年ロシアW杯で日本代表はベスト16という結果を残した。大会2ヶ月前に監督を解任し、その後のテストマッチでもボロクソ言われていたにも関わらず、GL突破という「結果」を残したのだから彼ら日本代表が称賛されるのも間違ってはいない。 かくいう私もハリルホジッチがよく分からない理由で解任されて以降、すっかり代表に嫌気が差していた1人だ。それでもベルギー戦の後には、大会前にさっさと3連敗してしまえと少しでも思っていたことを恥じた。試合後のとあるインタビューを目にするまでは。
「今大会のために作られたってよりはこの4年のために海外に行って、Jリーグでもそうだし、その培ってきたものが結局ワールドカップに出ていると思う。それをまとめてくれたのが西野(朗監督)さんだと思う。まあハリル(ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督)さんでは選ばれていない可能性のある選手もいっぱいいたと思うし、そういう意味ではそういうのを認めてくれたっていうことはすごく大きかったのかな」
そういやGL突破後にわざわざハリルホジッチ解任に言及したやつがいたな
「協会側がハリルさんを解任して西野さんにしたっていう判断。記事とかも俺は見ていましたけど、ハリルさんの時にあれだけ『解任した方が』とか報道で出ていた。でもそれをした途端に『何でこの時期なんや』みたいなとか。俺は見ていてちょっとよくわかんなかった。勇気のいる決断だったと思うので、俺らからするとその判断っていうのはその時から素晴らしいものだと思っていました。そういう判断をした協会に対して、次は自分たちが応えないといけないとは思っていた」
週刊誌に造反組と名指しされたのは誰だっけ?
「既に代表落ちしていた本田が、田嶋会長の個人アドレス宛てに連名で“監督解任”を請うメールを送ろうと持ちかけてきたのです。他にも乾、FW岡崎慎司、DF吉田麻也が“連判状”に名を連ねました」
田嶋幸三はかく語りき
田嶋:試合の結果と言うよりは、内容だとか選手たちの望む気持ちなどを汲んでこの結果になりました。この結果だけじゃなくて、去年から我々は色々ディスカッションしていました。
(略)
今回選手に聞いてわかったのですが、自分がでれないから監督を変えてくれなんて言うような選手は一人もいない。日本のサッカーを考えてくれているのがわかってとても嬉しかったし、スタッフも監督と実際に話したりしていました。
へー笑
これらの報道に対して抱いた気持ちを『砕かれたハリルホジッチ・プラン』の著者である五百蔵氏は端的に指摘してくれていた。
「自分が落とされるから言うんじゃないんです、日本サッカーのためです」と田嶋さんに直言したその選手達(田嶋さんご自身談:於NHK)が大会も終わらぬうちから「監督替わって良かった」「西野さんじゃないと選ばれてなかった」と口々に言って、それが広く報道されてる現状冷静に考えたらやばいな
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2018年7月5日
やっぱり、今回のW杯に出場した日本代表は「私達の代表」ではなく「彼らの代表」だったんだなと。ベスト16に進出したからといって彼らの造反劇を不問に付すなんてことはありえない。一番問われるべきは解任の最終的な判断を下した田嶋会長で間違いないのだが。
別に私はハリルホジッチが素晴らしい監督で、そんな人を解任するのは間違いだった、と怒っている訳ではない。ハリルホジッチの実績、発言にどれほど説得力があろうと、彼のやり方は日本人に嫌われる典型例だ。どんなに贔屓目で見ても選手から反感を抱かれる指導者だろう。だが私が許せないのは、彼らはピッチ上の実力で自らの座を掴んだのではなく、ピッチ外の「政治」を駆使し監督を追い出すことによって代表に選ばれたからだ。しかも、それを全く自覚すらしていない。呆れるしかない。
監督と選手の不和というのはサッカーではよくある話だ。今回のロシアW杯でもアルゼンチンは内部崩壊を起こし、選手によってスタメンが選出され監督が権限を剥奪されたとの報道もされた。また世界的な名将の一人に挙げられるアンチェロッティですらバイエルンでは選手に見切られている。そう、枚挙に暇がないどころか犬も歩けば監督が解任される程によくある話だ。我らが大宮アルディージャも2013…うっ頭が
それではぼくらのサムライブルーはどうだったのか。なるほど解任に関する報道をみると2018年3月の欧州遠征では相当に内部の雰囲気は悪かったらしい。ではチーム全体が完全にハリルホジッチにそっぽを向いていたかというと、どうにも怪しい。
わざわざW杯後に3人の選手がクビになった前監督へ感謝の言葉を述べている。ただの社交辞令、たかが3/23人じゃないかとも取れる。更に浅野や森岡の言葉をみてみよう。
だからこそ今大会の試合を見ても、そのことが(香川)真司さんや本田(圭佑)さんの活躍につながっていると思います。経験があればある選手ほど、監督の指示が違うと思えばチームのために意見を言うし、チームのためになると思ったら監督の指示と違うこともやろうとする。そういう意味では、監督が求めていることに100%集中する選手もいる一方で、それが難しい選手がいるというのも、また事実だと思います。
【日本代表】「観ていても分かると思うし…」。森岡が監督と選手間のギャップについても言及 | サッカーダイジェストWeb
監督を信じてやらないといけない。ワールドカップでそのやり方で結果が出なくて初めて、それがよくなったとなる。大会に入るまで良くなかったのに、ワールドカップで結果がでればそれは評価されるわけで。今の状況が良くないからといって選手たちのやりたいようになるのもどうかなと。それが結果につながる確証はないですしね
また神戸新聞の報道によれば、『「おまえは監督の言うことに従う派か、従わない派か」。選手の間では、そんな言葉が飛び交っていたという。』とのこと。(新聞記事を撮影したものしか見つからなかったため、リンクは控えます)
どうやら反ハリルホジッチの一枚岩ではなかった様子。そしてここで1つの問いが見えてくる。「選手は良かれと思って監督の指示に反しても、その行為は許されるのか」
今回の造反劇、そして2010年から2018年にかけての日本代表の問題はここにあると個人的に考えている。普通に考えれば答えは「許されない」だ。1つの例として今シーズンの武藤嘉紀が挙げられる。今シーズンはマインツに所属し、チーム1位の8得点をあげているにも関わらずスタメンとして確固とした地位を築けなかった。その一旦が伺えるのが下記のインタビューである。
後半55分から(1トップとして)ピッチに立った武藤は中盤まで下がり、パスを受けて、攻撃を組み立てようとした。しかし、そのプレーは監督の意図とは反しているという。
「フランクフルトはいいテンポで回ながら攻めているのに、マインツは無理にでも前線に合わせてロングボールを蹴っているから前線が孤立してしまう。その違いが顕著にみられた試合だった。監督からは(相手の)DFとDFの間に立って、そこから裏を狙えと言われていたけど、ときには下がった場所で、パスを受けて、攻撃のテンポを作ろうと思った。前にいるだけだと、ボールにも触れないし、身体能力の高いこちらのDFに勝つことが難しいから」
おそらく、彼が監督から全幅の信頼を得られなかったのはこうしたプレーに原因があるだろう。監督の意図に反してプレーはしてはならない。何故か? それは至極単純で、サッカーがチームスポーツだからだ。予め監督がゲームモデルを策定し、11人の動きをデザインして試合に挑むにも関わらず、1人が勝手にゲームモデルの根本から反するプレーをしたら他の10人が困るのだ。チームとしているべき場所にいない、するべきプレーをしない選手、そんな選手を許容すると組織が成り立たなくなる。本人がチームのために良かれと思っても免罪符にはならない。
いやいやいやそれは実際にサッカーをプレイしたことのない素人が勝手に言えることだと仰る方もいるかもしれない。しかし社会通念上、あなたは上司の指示を無視して独断専行で仕事しますか? しませんよね? 何故サッカーだと許されるんですか?
しかしサッカー日本代表・サムライブルーではそうした行為は許されるらしい。侍のくせに忠義心はない。象徴的なのは本田だ。ウクライナ戦でのプレーを訝しんでいたら、わざわざNHKの番組で自ら白状してくれた。彼は本当にプロフェッショナルなのだろうか。
まぁ彼らもただハリルホジッチが憎いから反旗を翻したのではないはずだ。「良かれと思って」行動したはずなのだ。そこに出てきる言葉は田嶋会長曰く「日本のサッカーのため」。上記の記事で乾は「自分たちはどっちかというとそういうタイプのサッカーは合わないと思う」と発言しているように、ハリルホジッチの方針に従っても未来はみえないと判断したのだろう。
ちなみに我らが代表はザッケローニの時にも戦術変更を進言している。そしてザックは次のように答えた。
本当に心の底から、我々のサッカーを信じてやっているのか? 私はそう思わない。もっとトライすべきことであって、深くとことんトライした上で、監督である私に意見を言ったほうが良いのではないか?
矢野大輔『通訳日記』P.280
ハリルホジッチの標榜するサッカーを日本代表はどこまで実践できていたのか。実際、かなり怪しいところがある。「縦に早く」はハリルホジッチのサッカーのキーワードのように扱われているが、よく読み解いてみるとその意図は正しく理解されていなかった。
ハリルホジッチが言っていることの本質は「縦に速く」ではなくて「裏に速く」なんですよね。その「裏」というのは必ずしも「最終ラインの裏」ではなくて、常に相手の守っている場所のギャップをとっていく、ということになると思います。
今さらですけどハリル前監督は「縦に速く」という言葉を使ってなくて、攻撃で強調していたのは以下3つ。
— 河治良幸 (@y_kawaji) 2018年5月19日
「1、2タッチで速くボールを動かせ」
「第一にディフェンスの裏を狙え」
効率よくゴールを目指す志向でこれらを指示しているうちに「縦に速く」に印象変換されてしまったものと思われます。
また「デュエル」に関しても同様だ。単に"1対1の局面での競り合い"程度にしか受け止められておらず、その理解も我々は怪しかったというオチだ。
確かに前監督は球際で激しく行くことも要求したが、基本的にファウルをしないこと、攻撃では時に相手からファウルをもらうことの大切さを説いていた。加えて1対1の局面では強さだけでなく、賢く闘うことも要求していた。つまり、デュエルの局面で負けなければいい。当たりの強さはベースの1つではあるが、全てではないのだ。
五百蔵氏は『砕かれたハリルホジッチ・プラン』の中で「デュエル」を以下のように位置づけている。
単なる1対1を意味するのではない、優れてタクティカル(戦術的)なデュエルであり、試合の趨勢を決めてしまうほど重要なものであること
選手、メディア、我々一般サポーターはどれほどハリルホジッチのサッカーを理解できていたのか。多分、理解できないから彼のサッカーを信じられず、クビにしたのだろう。
一方で浅野や森岡の発言を鑑みるに、それでもハリルホジッチの言うことに必死に付いていこうとした選手もいたことは事実だ。ハリルホジッチを信じられず「日本のサッカーのため」政治的手段によって監督にNoを叩きつけた選手と、監督の求めることに応えようと努力した選手。どちらが行動が正しかったのだろうか。結果的にロシアW杯メンバーに選ばれたのは前者の方だ。そしてその代償として歪な選出がなされることになる。その象徴的な犠牲は久保だろう。
落胆、悔しさ、悲しさ……いろんな感情が一気に吹き上がってきた。なんでやろ? なにが足りなかったんやろ? 何度考えても答えが見つからない。発表が終わってからも自分の気持ちを整理することができなかった。正直に言えば、発表から数日経ったいまでも、整理できないままの気持ちを無理やり抑えているような状態だ。 いまの気持ちのままなら、僕はワールドカップをテレビで観ることもしないだろう。日本代表を応援したい気持ちはある。だが、ともに予選を戦った仲間たちがロシアの地で躍動する姿を観たとき、自分がどんな感情になるのか、よくわからない。
彼に関してはメンバー発表前の扱いもあんまりだ。
2ヶ月前に監督を代えておいて、予選で活躍した久保を代表合宿に合流させることなく、本大会メンバー発表まで自主練を指示した挙げ句、事前の連絡なしに選外にしてるもんな。JFAは選手にどんだけ失礼なことしてるんだよ。
— シェフケンゴ🇧🇪 (@shevkengo) 2018年7月9日
協会は結果的に5人の選手の要望を受けてハリルを解任した手前、彼らの面子を保つため選出せざるを得ない。彼らのうち4/5人がアタッカーのため、その煽りを受けて外された形であることは容易に想像できる。ちなみにそのうち3人は怪我明け、1人は試合感覚が空いており4人ともコンディションに不安を抱えていた。
久保が反ハリルだったかどうか定かではないが、実力的にも、戦術的にもW杯メンバーから選外になるような選手だっただろうか。ポーランド戦で酒井高徳が右SHで起用されたのをみて久保を選んでおけば…と頭を抱えた人もいるだろう。 西野さんは初陣となるガーナ戦で宇佐美と本田の2シャドーという狂気の沙汰をみせている時点で、W杯初戦で起用したスタメンを選考段階で想定していたとは思えない。SHの役割をこなせるのが乾と原口の2人しかいないのにも見てとれる。おそらく、23人の選出にあたっては具体的戦術は何も考えてなかったのだろう。造反劇によって発生した無計画なメンバー選考の犠牲になり、日本代表に尽くしてきた4年間が報われなかったのは久保だけではない。彼らの無念さは、他人が勝手に代弁するのすら憚られる。
それなのに、それなのに冒頭の乾と岡崎のコメントである。これほど人をコケにした発言はあるだろうか。造反して選ばれた選手、ハリルホジッチを信じて選ばれなかった選手、どちらが4年間で筋を通してきたのだろう。
今回、メンバーから落選した20代の選手からは「もう代表に協力したくないとすら思う。多くの時間を代表にささげ、結果を残した。落選理由も説明されていない」という声が聞かれた。
乾も、岡崎も、香川も、本田も、そして吉田も日本人サッカー選手として実力も実績も傑出した存在だ。尊敬の念も抱いていた。しかし、私はもう純粋に彼らを応援することはないだろう。長谷部の代表卒業旅行に連れて行ってもらってよかったな。長谷部も日本サッカー史に残るキャプテンだとは思うが、2大会連続で監督と選手の間を取り持つことに失敗していることについて、誰か引退後にでも聞いてみてほしい。
先にも書いたとおり、最も糾弾されるべきはハリルホジッチ解任を決断した田嶋会長だ。そのため田嶋幸三や川淵三郎の息のかかった人物が会長職に就いている間、私が日本代表の試合を見ることはもう無い。
これまで根拠に並べてきたことは所詮スポーツ新聞、週刊誌の報道である。しかしこれらを明確に否定する記録が出てこない限り、解任の一端を担ったと思われる選手達を許す気にはなれないのだ。
最後に、ロシアW杯の屈指の名勝負としてメキシコ-ドイツ戦と並んで後世にも語られていくであろう、ベルギー-ブラジル戦後のロベルト・マルティネス監督のコメントを引用して筆を置く。
「初めての戦術を用いたが、必ず勝つことができると思っていた。大事なのはその実行力だ。それが今日は素晴らしかった。監督の指示を選手たちが受け入れるのには勇気が必要だ。だが、彼らは2日でポジションとアプローチを変えた。選手たちに作戦を与え、それを彼らが完璧に実行する。それが監督の役目だからこんなに誇らしいことはない」
P.S.
許さないリストにもう1人いることを忘れていたが、もう文章を書く気力がないので記事を並べておく。
手倉森コーチの昇格を望み、それを想定していた選手も多い中、西野監督が就任
惜しかったね。